研究内容

高レベル放射性廃棄物地層処分

高レベル放射性廃棄物地層処分におけるニアフィールド長期挙動評価技術の開発

高レベル放射性廃棄物地層処分

わが国では原子力発電所で使用した燃料を再処理し、ウランやプルトニウムを回収して有効に活用する原子力政策を採択しており、この処理によって高レベル放射性廃棄物(HLW;High Level radioactive Waste)が残ります。
HLWは高い放射能を持ち、放射能が自然レベルに落ち着くまで数万年を必要とします。HLWは今後も増加の一途をたどることが予想されており、その処分は、我々人類が取り組まなければならない最重要課題のひとつであると言えます。

近年では、HLWを地下深部に最終処分する「地層処分」が唯一実現可能性のある方法であるとの国際的な共通認識が得られています。高レベル放射性廃棄物地層処分(以下、地層処分という)に関してわが国では、地下300メートル以深の安定な岩盤に処分することが法律で定められています。地層処分は、地質環境が本来的に備える遮蔽物としてのバリア機能(天然バリア)と、高レベル放射性廃液をガラスに混ぜステンレス製のキャニスターに固めたガラス固化体を金属製の容器(オーバーパック)に密封したうえで、さらに粘土を主成分とする緩衝材で包み込む人工バリアとを組み合わせた「多重バリアシステム」によりその安全性が確保されます。

しかしながら、現在のところ稼働している地層処分場は世界に一つもなく、わが国においては処分場候補地の目途すら立たない状況にあります。その原因のひとつとして、わが国は地盤が軟弱で亀裂に富み、地震が多発するため、地層処分に関する安全性評価を極めて慎重に検討し、その安全性を実証しなければならないことが挙げられます。このような地層処分の安全性を示していくためには、実際の地質環境の知見の蓄積や、岩盤や緩衝材の長期挙動を評価する手法の開発・整備が必要不可欠であると考えられます。

熱-水-応力-化学連成解析モデルの開発

地層処分の安全評価は数十年から数万年という超長期を対象としたものであり、この予測評価のためには現象のモデル化による解析的手法が主要なアプローチ方法となります。地層処分における人工バリア設計や性能評価の信頼性の向上のためには、建設、操業および閉鎖後にニアフィールドに生起する連成現象の時間的、空間的な変遷を定量的に把握する必要があります。このためには、ニアフィールドにおける熱-水-応力-化学連成挙動を数値解析により評価する技術の開発が不可欠であると考えられます。

廃棄体定置後のニアフィールドでは、廃棄体からの放熱、周辺岩盤から人工バリアへの地下水の浸入、地下水の浸入による緩衝材の膨潤圧の発生、周辺岩盤の応力変化、緩衝材/間隙水化学の変化などの現象が相互に影響し、非常に複雑な環境となることが予想されます。そのため、地層処分に関する長期的な安全性評価を高精度に実施するためには、できるだけ実際の処分環境に近い環境での連成挙動に関するデータを用いて連成解析モデルの構築および精緻化、構築したモデルの検証・確証を行うことが重要となります。これを目標として、国際共同研究「DECOVALEX-2011 Task B」では、スウェーデン・エスポ(Äspö)地下研究施設における実際の処分環境を模擬した原位置試験を対象とした連成解析を実施しており、室内及び原位置試験結果と数値解析結果の比較により熱-水-応力-化学連成解析モデルの開発及び検証が進められています。

また、人工バリアにおける緩衝材には、止水性、自己シール性、核種収着遅延性、熱伝導性、化学的緩衝性、オーバーパック支持性、応力緩衝性などが長期間維持されることが求められます。これらの機能を比較的満足し得る材料として、ベントナイトを主成分とする材料が考えられていますが、緩衝材に期待される機能や役割、安全評価項目を検討するためには、室内試験や工学規模試験により諸特性を明確にし、得られたデータにより様々な角度から評価を行う必要があります。

そこで、岩石や土質材料中における亀裂の発生、破壊や大変形、膨潤挙動を良好に再現することが可能である粒状体個別要素法(Distinct element method)を用いて緩衝材の変形挙動を考慮した新たなDEMモデルの開発を進めています。