研究内容

地圧計測

地殻応力とは、地下岩盤に作用する応力、すなわち地殻応力は鋼構造物における負荷応力に相当するものであり、それを計測評価することは、地震や火山噴火等の甚大な被害を引き起こす地球物理学的諸現象の解明、あるいは、高温岩体からのエネルギー抽出、核廃棄物の地下保管、地下発電所の建設といった地下空間の工学的利用のために必要不可欠です。
地殻応力測定に対する時代の要請は、かつての土木・鉱山開発の分野で対象とされてきた数十~数百mの浅深度から、エネルギー開発、地震対策などの分野が必要とする数km以上の大深度へと対象が拡大しています。しかしながら、掘削技術が対象深度によって大きく変わるように、浅深度用として構築された従来の地殻応力測定法を、そのままkm級の深度に適用することは全く不可能です。これは、深度が増えると坑井内が高圧、高温となり、坑壁の不安定性が相対的に増え、また掘削コストも増すために高い耐久性と信頼性が要求されるようになるためです。このため、それらの条件を満足する新たな地殻応力測定法の開発が必要となっています。

BABHY(BAby Borehole HYdrofrac)方式


地殻応力を原位置で測定する基本原理の一つとして水圧破砕法があり、比較的深い場所での測定に適した方法と考えられてきました。
しかし、き裂開口圧と呼ばれる観測値から坑井直交面内の最大応力(鉛直坑井では水平面内の最大応力SHmax)を求める手順に根本的な誤りがあることを本研究室の伊藤教授が明らかにし、世界的に広く知られるところとなっています。

誤りの主な原因は、測定システムの加圧圧力に対する変形率(コンプライアンスC)が、き裂のそれに比べて大きすぎることにあります。
したがって、測定システムのCを数cc/MPa程度まで小さくできればSHmaxの測定が可能となります。これを具体化し、かつ、km級深度に適用する手段として伊藤教授が先に提案したものがBABHY(Baby Borehole Hydrofrac)方式であり、深度約800 mの実坑井を用いた試験にも成功しています。
同方式の特徴は、(a) 加圧ポンプを坑内ツールに組み込み、かつ、本体の坑井よりも直径が小さくて長さ数m程度の孔(ベビー孔と呼ぶ)を坑底部に補助的に設け、その中で水圧破砕試験を行うことで加圧系をコンパクトにしてCを最小化すること、(b) ベビー孔掘削時に回収したコアから既存き裂の有無を確認できること、さらに、(c) コアリング編成のドリルパイプの中をワイヤーラインでツールを昇降させることで大深度でも抑留を回避しつつ、大深度でも短時間で測定できること、などにあります。